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名古屋高等裁判所 平成3年(ネ)371号 判決 1995年7月19日

控訴人(原告) 加藤義秋 外三名

被控訴人(被告) 学校法人名古屋学院

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  控訴人らと被控訴人との間において、昭和四二年三月三一日改正にかかる学校法人名古屋学院年金規程が現に効力を有することを確認する。

3  控訴人加藤義秋、同横江功、同秋重泉と被控訴人との間において、右控訴人らが、被控訴人から前項の年金規程に基づき年金を受給し得る地位にあることを確認する。

4  被控訴人は、控訴人山森徹に対し、

(一) 金六六四万八三二〇円及び内金一六六万二〇八〇円に対する昭和六二年四月一日から、内金一六六万二〇八〇円に対する昭和六三年四月一日から、内金一六六万二〇八〇円に対する平成元年四月一日から、内金一六六万二〇八〇円に対する平成二年四月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 平成三年から平成二四年まで、毎年三月末日限り、金二〇七万七六〇〇円ずつの金員を支払え。

との判決並びに4項につき仮執行の宣言を求めた。

二  被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二事案の概要

一  経緯等

被控訴人は、明治二〇年にプロテスタント系外国人宣教師によって設立された愛知英和学校に起源を有し、中学校と高等学校を併設する学校法人である。控訴人加藤は昭和三三年四月、同横江は昭和三一年四月、同山森は昭和三六年四月、同秋重は昭和四六年四月にそれぞれ被控訴人に採用された専任職員(教員)であり、そのうち控訴人山森は昭和六一年三月末日に退職した。

被控訴人は、私立学校教職員共済組合規約による年金制度のほか、被控訴人独自の年金制度(以下「独自年金制度」又は「本件年金制度」という。)をも採用していたところ、昭和三四年五月二六日の就業規則の制定に際して、就業規則上に右両制度に関する規定を置き、これらを就業規則上の制度として位置づけたもので、控訴人らは、以後就業規則の細則(昭和四二年三月三一日の改正後は「学校法人名古屋学院年金規程」(以下「本件年金規程」という。)となる。)の定めるところに従って本件年金の拠出金の積立てをしていた。

ところが、被控訴人理事会は、昭和五三年七月一七日開催の被控訴人理事会において、本件年金制度の廃止等を内容とする就業規則及び本件年金規程の改廃の決議をするとともに、被控訴人理事長職務代行者成田薫が、控訴人らに対し、昭和五三年七月二六日付け「学院年金・退職金制度に関する理事会決議について(通知)」と題する文書で、本件年金制度を昭和五二年三月に遡って廃止する旨の通告をし、以後、控訴人らに対し、本件年金規程に基づく控訴人らの年金受給権は失われたものとして取り扱うに至った。

そこで、控訴人らは、<1>控訴人らの年金受給権は、控訴人らと被控訴人との間の個別の年金契約に基づくものであり、仮にそうでないとしても、<2>控訴人らは、就業規則の細則としての本件年金規程に基づき労働契約上の年金受給権を有するところ、<3>これを一方的に廃止することは許されないのであって、廃止するためには、<1>の場合であれば控訴人らの同意が、<2>の場合であれば、本件年金規程が労働協約としての性格をも有することにかんがみ、組合の同意が、それぞれ必要になるところ、本件においてはそれらを欠くから、本件年金規程の廃止は無効である、また<4>本件年金規程の廃止については、本件年金規程の改廃に関する手続規程や労使間の合意等の違反があるから、無効であるなどと主張して、被控訴人に対し、主位的には年金契約に基づき、予備的には本件年金規程に基づき、<1>控訴人らが、控訴人らと被控訴人との間において、本件年金規程が現に効力を有することの確認、<2>控訴人山森を除くその余の控訴人らが、同控訴人らと被控訴人との間において、右控訴人らが本件年金規程に基づき年金を受給し得る地位にあることの確認、及び<3>控訴人山森が、本件年金規程に基づき算出した年金額の金員を支払うよう求めて、本件訴訟を提起した。

被控訴人は、控訴人らの主位的請求を争い、また、予備的請求については、労働協約の成立を争うとともに、本件年金規程を含む就業規則等の改廃については合理性があるから、右廃止は有効であるなどと主張した。

原審は、控訴人らの主位的請求につき個別年金契約の成立を否定するとともに、予備的請求については、独自年金制度廃止の有効性を認めた結果、控訴人らの本件年金受給権は失われたと判断して、控訴人らの請求をいずれも棄却した。

二  当事者双方の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

1 被控訴人の就業規則及び本件年金規程の改廃が、手続違背により無効であることについて

(一) 労働協約違反その一

控訴人らは、本件年金規程の内容は、被控訴人と名古屋学院職員組合(以下「組合」という。)間の合意により、労働協約に取り込まれ、その内容ともなっているから、組合の同意がなければ廃止できないと主張していたところ、右労働協約の成立を認めなかった原判決の認定には、誤りがある。

すなわち、甲第二三号証に職員組合と被控訴人の双方の署名又は記名押印がなく、組合と被控訴人の双方の署名又は記名押印がある労働協約書自体が提出されていないとしても、名古屋学院史(甲第八四号証、三六九頁)に「敬神」二号を引用して「今は労働協約等の交換も終わり、順次各条項にわたり其の締結の見通しもつき」との記述があるのに続いて、「九月一四日の結成総会以来先ず給与面の合理化に始まり、学院の民主化・労働協約・退職規定・恩給などの問題は順次進捗していった」との記載があり、労働協約が締結されたことを前提とした記述であること、労働協約上の組織である運営協議会が実際に組織され労使によって運営されてきたこと(甲第二三号証、甲第二九号証)、控訴人山森が昭和三六年に被控訴人に採用された際に、甲第二三号証を渡され表題から「案」の文字を削除しておいてくれといわれたこと、労働協約が確か調印されているはずだといっている者がいること等からして、甲第二三号証の労働協約書案に記載のとおりの労働協約が締結されたことは事実である。

また、本件年金規程が労働協約として成立するための労働組合法一四条所定の記名捺印のある書面の作成の要件は、甲第一七二号証の第一回運営協議会会議録に被控訴人学院長末包一夫と名古屋学院職員組合委員長の記名押印ないし署名押印があることによって充足されている。

(二) 労働協約違反その二

本件年金規程の廃止については、控訴人らが所属する組合である名古屋学院教職員組合協議会(以下「協議会」という。)と被控訴人との間において成立し、労働協約の効力を持つ昭和五一年九月一八日の団体交渉覚書(甲第一二号証)により、<1>協議会の同意を得ること、<2>個々の職員の同意を得ること、が条件とされていた。しかるに、<1>被控訴人は協議会の同意を得ておらず、<2>個々の職員のうち不同意者が三分の一にも及んでいた、のであるから、これに反する本件年金規程の廃止は無効である。

なお、原判決は、この点について判断を遺脱している。

(三) 本件年金規程改廃権者の変更

(1) 本件年金規程改廃の権限は、本件年金規程八条の定めるところにより、年金・退職金管理運営委員会(以下「年退委」という。)に変更されており、理事会は改廃権限を失ったものであるから、理事会がした、独自年金制度の廃止に関する就業規則及び本件年金規程の改廃の決議は無効である。

なお、右年退委は、運営協議会の専門委員会であって、原判決がいう名古屋学院年金・退職金基金管理運営委員会規則に基づく「年退委」とは異なる。

(2) この点につき、原判決は、本件年金規程八条について「規定の個々の条項に止まらず、本件年金制度自体の廃止権限についてまでも定めたものと解することはできない。」と判断し、「本規程の疑義・解消」を、「本規程の疑義及び本規程の解消」ではなく「本規程の疑義の解消」を意味すると解したのは、文理に反するもので極めて不当な判断である。

なお、原判決が、甲第二七号証の規則の制定について、「本件年金規程が制定された昭和四二年三月三一日から昭和四三年一月一七日までの間のいずれかの時点において甲第二七号証のとおりの内容の名古屋学院年金・退職金基金管理運営委員会規則が制定され、これに基づく委員会が発足したものであり、同号証の表題及び体裁等に鑑み、右年金・退職金基金管理委員会規則が年退委の目的、構成及び権限等に関する規則と認められる。」とした認定は、証拠に基づかない推測である。甲第二七号証の規則は、昭和四一年度学院長年次報告(甲第一一二号証)及び昭和四二年度学院長年次報告(甲第一一三号証)中の各年度中に理事会において制定された諸規則としてあげられていないものであり、被控訴人主張の年退委成立の根拠とすることはできない。結局、本件年金規定八条にいう年金・退職金管理運営委員会とは、控訴人主張のとおり、運営協議会の専門委員会たる年退委を指すものであり、それ以外の委員会が作られた事実はない。

(3) また、年退委は、全員一致制で運用され、一致が得られないときは、運営協議会の協議にかけられ、そこで結論に達しないときは労使の団体交渉にまわされるとの労使慣行であった。したがって、年退委の全員一致の決議を経ないでした、被控訴人の右就業規則及び本件年金規程の改廃は無効である。

(四) 理事職務代行者の職務権限について

理事職務代行者に、本件年金規程を改廃する権限があるとした原判決の判断は誤りである。原判決は、私立学校法人の理事職務代行者については、単に、商法二七一条、非訟事件手続法一三二条の五のような常務外行為についての制限が設けられていない等の形式的な論理のみで判断しているが、十分な理由ではない。

2 就業規則及び本件年金規程改廃は、その合理性を欠き、無効であることについて

控訴人らは、一次的には、本件年金規程が、年金契約もしくは労働協約の内容をなすものであって、したがって、就業規則の改廃によってはこれを廃止することはできないと主張したものであるが、仮に、右主張が理由がないとしても、二次的には、本件年金規程の廃止は合理性を欠くもので無効である、と主張するものである。すなわち、

(一) 本件年金規程による年金受給権は、一部は被控訴人の拠出を構成要素とする意味で永年勤続(労働)の対価の性質を有するとともに、教職員の年金拠出金の対価としての性格も有し、権利性が高いものである。しかも、本件年金規程廃止による控訴人らの年金受給権の喪失による不利益は極めて大きいから、本件年金規程廃止を正当化するためには合理性の程度も高度のものが要求されるところ、以下に述べるとおり、本件年金規程を廃止する必要性が乏しいのに対して、右廃止によって控訴人らが被る不利益は大きく、また、被控訴人主張の代償措置は控訴人らにとっては代償機能を果たさないか、逆に不利益をもたらすものであるから、本件年金規程廃止の内容は、代償措置を含めて考えても、右の高度の合理性を有するものとは言えない。

(二) 必要性について

昭和五一年における本件年金基金の赤字は、大量退職者の発生による一時的なものに過ぎず、被控訴人の財政状況は、その後において好転していることに照らしても、本件年金規程における年金基金は破綻していないから、年金基金の破綻による本件年金規程廃止の必要性もあるとはいえない。

また、被控訴人のような学校法人の財政状況を判断するについて、消費収支のみを重視し、これにより一面的に評価するのは誤りであり、消費収支の赤字(支出超過)を直ちに全般的な意味での財政悪化と結び付けてはならない。すなわち、学校法人は営利法人と異なり、経常収支の黒字を多くする必要はないから、大半の学校法人は、学校法人会計に特有な基本金の組入れで消費収支(差額)を調整しているのであって、右基本金組入れの仕方によっては、消費収支の赤字・黒字を左右することがあり得るからである。

また、被控訴人の財政が危機的であったというためには、他の学校法人の財政との比較において、多面的にかつ客観的に明らかにされなければならないのに、これが明らかにされていない。

したがって、被控訴人の財政状態の破綻による本件年金規程廃止の必要性は認められない。

(三) 控訴人らが本件年金規程の廃止により被る不利益について

また、原判決は、本件年金規程の廃止により控訴人らの受ける不利益を具体的に認定していないが、不利益変更の代償を考慮するのである以上、控訴人らの受ける不利益の額を認定する必要がある。

そして、本件年金制度の廃止によって控訴人らが被る不利益の程度を、平成四年三月に退職したものと仮定して、その時点における勤続年数、年齢、基本給を基礎として(控訴人山森については実際の退職時期の昭和六一年三月を基準とする。)、本件年金規程廃止により控訴人らが受ける具体的な不利益を算出すると、控訴人山森につき三二八一万円、同横江につき五七一六万円、同加藤につき五四四九万円、同秋重につき二〇五四万円(なお、同人については、四四歳時退職の仮定で算定しており、勤続年数を重ねれば他の控訴人らと同様もしくはそれ以上の金額が算定されるはずである。)となる。このように本件年金規程の廃止により控訴人らの被る不利益は極めて大きいから、これだけ見ても、これを侵害する本件年金規程の廃止には合理性がない。

(四) 代償措置について

改廃の内容に関し被控訴人の主張する各代償措置は、下記のとおり、控訴人山森、同秋重においてほとんど代償機能を果たさず、控訴人横江、同加藤については各代償措置自体が極めて大きな不利益をもたらしているのであって、本件年金規程廃止の合理性を基礎付けるものではない。

すなわち、被控訴人の主張する代償措置は、<1>退職金制度の改正については、イ支給乗率の改定は有利変更ではあるが、ロ倍額規程の廃止により、五七歳以上、勤続三五年以上の者については有利変更の機能をもたない、<2>定年制の導入は、六五歳まで勤務し、その間の賃金を取得する利益、右<1>ロの退職金倍額規程の適用を受ける利益を奪うものであり、<3>再雇用制度は、定年制が実施されたため一見新たな制度の創設と観念されるが、実態は何ら新規なものではなく、新たに付与された利益とは評価し難いものであり、<4>退職金の選択制は、A「旧乗率による退職金+凍結年金一時金」とB「新乗率による退職金」の選択を強制するシステムとなっているが、旧乗率には倍額規程は適用されないから概ねAよりBが高額となるので、退職者はBを選択せざるをえないが、この場合は凍結年金一時金を受領する利益は放棄を強制される。つまり、退職金の支給乗率の改定は、純粋に有利改定を目的とするものではなく、凍結年金一時金を奪う機能を果たしている。被控訴人は凍結年金一時金を退職時に支給するのではなく、実は、新乗率と旧乗率による退職金の差額の財源に流用しているもので、実に巧妙なものである。

(五) 控訴人加藤、同横江の年金受給権については、控訴人加藤は、昭和五三年四月の経過によって、控訴人横江は、昭和五一年四月の経過によって、いずれも本件年金規程による年金受給権取得の要件である二〇年以上の勤続となり、かつ、拠出金の拠出義務を果たしているから、本件年金規程による年金受給資格を取得したものであり、被控訴人は、就業規則の変更によって、この既得の権利を侵害することはできない。

なお、本件年金制度を昭和五二年三月末日に遡って廃止するとの措置は、これによれば、控訴人らの年金受給資格の取得を妨げることになるものであるから、遡及効は認められないというべきである。

(被控訴人の主張)

1(一) 控訴人らの主張1(一)は争う。

なお、名古屋学院史(甲第八四号証、三六九頁)の記載は、単に、「今は労働協約案の交換も終わり、順次各条項にわたり其の締結の見通しもつき」という見通しを述べたに過ぎないものであって、これを「労働協約等の交換」とする控訴人らの引用には誤りがある。

また、甲第一七二号証の書面は、運営協議会の会議録であって、労働協約成立に必要な文書による合意の要件を充たすものではない。

(二) 控訴人らの主張1(二)は争う。

(三) 控訴人らの主張1(三)は争う。

年退委が、運営協議会の専門委員会であるとの控訴人らの主張は争う。

なお、控訴人らは、甲第一一二号証、第一一三号証に規則(甲第二七号証)制定の記載がないことを理由にして、右制定がなかった旨主張するが、右甲第一一二号証、第一一三号証の記載は、昭和四一年度中になされた名古屋学院退職金規程の新設、名古屋学院年金規程の改正という重大な改正すら、制定された規則の欄に列挙されていない(両規程は、わずかに、組合との交渉の欄に「諸規程の作成」として「年金退職金規則」と概括的に記載されているに留まる。)ことからも分かるように、正確なものではなく、実際には、右二つの規程と基金運営委員会規則が制定されていたのが、報告上の記載は概括的な表現になっているにすぎない。

(四) 控訴人らの主張1(四)は争う。

2(一)控訴人らの主張2(一)は争う。

本件年金規程の廃止、退職金制度の改廃、定年制の導入は、控訴人らの受ける不利益を考慮しても、なお、学院財政の再建をはかり被控訴人の適正な維持運営を行うために必要止むを得ない処置であり、本件年金規定の廃止には合理性があるというべきである。

(二) 控訴人らの主張2(二)は争う。

年金基金の破綻については、昭和五二年末に四五九七万円の赤字に転化した事実のみで証明十分であり、右赤字の主因は構造的な事由によるものであり、八名の退職者を出したという一時的な事由のみによるものではない。

また、控訴人らは、被控訴人の会計処理において、基本金の組入れやその取り崩しが自在に行えるかのように主張するが、基本金の組入れや取り崩しは文部省令「学校法人会計基準」によって厳格に定められているうえ、被控訴人が公費補助を受けていることから、毎年、県及び公認会計士の厳格な監査・監督・指導を受けており、恣意的な会計処理がなされる余地はない。

(三) 控訴人らの主張2(三)は争う。

控訴人加藤、同横江について、本件年金制度廃止時においていずれも満五五歳に達しておらず、かつ、在職者であって退職していないから、具体的な受給権は具現していない。したがって、これを既受給者と同一に論じることはできない。ただ、本件年金規程においても満二〇年以上勤務した者への特別の配慮がなされていることに鑑み、廃止案において勤続二〇年以上の者に対しては、特別の配慮をなし、本件年金規程五条六項に定める「年金受給者が退職一時金を必要とするときは、五年間分の年金額を支給する。但し、年金に関する権利は放棄する」旨の一時金制度の趣旨を生かして、「同規程によって算出される五年間分の年金額を凍結する」旨の例外措置をおき、若年層とのバランスを考慮しつつ、二〇年以上勤続者の利益につき最低限度の権利保障を行っており、その金額は、控訴人加藤において四六七万七〇〇〇円、同横江において五八九万八〇〇〇円に及ぶ。

また、定年後特別講師採用制度は、従来からのいわゆる非常勤講師制度とは全く異なり、退職後教職員の生活の安定に資するため、本人が希望したときは、最高六七歳まで七年間にわたって一定の身分を保障しようとして考案されたものであり、一般非常勤講師に比して給与単価の面でも優遇し、かつ、年間賞与の点でも専任者と同様のものを保障しているものである。

(四) 控訴人らの主張2(四)は争う。

(五) 控訴人らの主張2(五)は争う。

第三証拠関係<省略>

理由

第一当事者間に争いのない事実

(一)被控訴人が、原判決別紙「原告一覧表」採用年月日欄記載の年月日に、同表職務内容欄記載の職員として控訴人らを採用したこと、(二)被控訴人は昭和三四年五月二六日に就業規則を制定したが、同規則四七条は、従来から存した私立学校教職員共済組合規約による年金制度及び被控訴人独自の年金制度(以下「本件年金制度」又は「独自年金制度」という。)を取り込み、それに関する事項を定めていたこと、すなわち、同規則四七条二号によれば、被控訴人の職員が死亡又は退職した場合は、「学校法人名古屋学院恩給基金規約の定むる所により一時金又は年金を支給する」と定められていたこと、(三)就業規則の細則である右恩給基金規約は、その後の改正を経て、昭和四二年三月三一日には学校法人名古屋学院年金規程(本件年金規程)となったが、その当時の本件年金規程の内容は、原判決別紙「学校法人名古屋学院年金規程」記載のとおりであり、その概要は、年金資金への拠出金積立ての義務を履行した専任職員で、満二〇年以上勤務し年齢満五五歳以上に達して退職した者は、退職の翌月から勤務期間と同期間にわたって退職時の俸給年額の三分の一の金額の支給を受けることができ、満二〇年以上勤務したが、年齢満五五歳に満たないで退職した者は、満五五歳に達するまでは右年金年額の一〇分の八の支給を受けることができ、勤務期間が二〇年を超える者には、二〇年を限度として一か年を加える毎に、退職時の俸給年額の一〇〇分の一・五を加給する等とする内容のものであったこと、(四)控訴人らは、本件年金規程の定めるところに従って年金の拠出金の積立てをしてきたこと、(五)ところで、被控訴人は、その後の昭和五三年七月一七日の被控訴人理事会において、抗弁1記載のとおり、被控訴人独自の右年金制度を廃止して、被控訴人の職員に適用のある年金制度としては私立学校教職員共済組合規約による年金制度に一本化するとともに、独自年金制度廃止に伴い、<1>昭和五二年三月三一日をもって年金一時金を算出し、これを凍結する。<2>凍結額の支払方法については、改正前の退職金支給乗率による退職金額と年金一時金凍結額との合計額又は改定退職金支給乗率による退職金額のいずれか一方を退職者の選択により支給する。<3>改定退職金支給乗率による退職金を選択した場合には、拠出金相当額を退職時に返還すること、<4>退職金の支給乗率を上げるなどを内容とする代償措置を定めたこと、(六)控訴人山森は昭和六一年三月末日に退職したこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

第二個別年金契約の成否について

一  まず、控訴人らは、被控訴人の独自年金制度は、就業規則成立前であって、かつ、控訴人らが被控訴人に採用された当時から存在していたものであるから、控訴人らの年金受給権は、控訴人ら採用時における控訴人らと被控訴人間の個別年金契約に基づくものと見るべきである旨(その契約内容としては、本件年金規程と同一内容のものとする。)の主張をするが、本件全証拠によるも、控訴人ら採用時において、控訴人らと被控訴人間に労働契約とは別に個別年金契約が締結されたことを認めることはできない。そして、被控訴人の独自年金制度の歴史と控訴人らの右主張に対する判断の詳細は、原判決理由欄第一の一及び二1記載のとおりであるから、これを引用する。

二  したがって、控訴人ら主張の本件年金受給権は、個別年金契約に基づくものではなく、右認定に係る、独自年金制度が就業規則に取り込まれた経緯等に照らすと、右年金受給権は被控訴人の就業規則の細則である本件年金規程に基づくものというべきである。

そこで、以下においては、被控訴人の昭和五三年七月一七日の就業規則等の改廃(独自年金制度廃止)の効力について、改廃手続上の瑕疵の存否と改廃の合理性の存否の両面から、判断することにする。

第三被控訴人の就業規則等の改廃の手続違背の主張について

一  契約相手方である控訴人らの同意を欠くとの主張について

まず、控訴人らは、控訴人らの年金受給権は個別年金契約に基づくものであることを前提として、控訴人らの同意なくしてなされた独自年金制度の廃止は無効である旨主張するが、右主張がその前提において失当であることは、第二の一、二において判断したとおりであるから、右主張は採用できない。

二  労働協約違反の主張その一について

また、控訴人らは、本件年金規程の内容は、被控訴人と組合間の合意により、労働協約に取り込まれ、その内容ともなっているものであるから、組合の同意がなければ廃止できない旨の主張をする。しかし、当裁判所も、本件年金規程の内容が、被控訴人と組合間の合意により労働協約の内容に取り込まれた事実は認められないと判断するものであって、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由欄第一の一、二記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人らは、本件年金規程が労働協約の内容ともなっていることの証左として、甲第二三号証(労働協約書案)、第八四号証(名古屋学院史)及び第一七二号証(昭和三四年度第一回運営協議会議事録)の各記載並びに原審及び当審における控訴人山森徹の本人供述を援用する。

しかしながら、甲第二三号証は労働協約案であって労働協約そのものではないし、甲第一七二号証は運営協議会の会議録であって、これらをもって、控訴人ら主張の労働協約の成立を認めるには足りない。

また、控訴人らは、名古屋学院職員組合作成の労働協約案である甲第二三号証記載のとおりの内容で労働協約が成立したはずである旨るる主張し、原審及び当審における控訴人山森徹の本人供述中には、右主張に沿う供述部分があるが、控訴人山森徹の右供述は、同人が被控訴人に採用される以前の、直接経験しない事実について推測ないし伝聞した事実を述べるものであって、信用性に乏しいだけでなく、これに反する乙第一〇一号証の一ないし七の記載に照らし、にわかに採用できない。

また、成立に争いのない甲第八四号証(名古屋学院史)には、労使間で文書が交換された旨の記載があるが、そこに記載されている文書が労働協約案に過ぎないことは、右記載自体から明らかであるから、これまた、控訴人ら主張の労働協約が成立したことの確証とはなし難く、他に控訴人らの主張を認めるに足りる証拠はない。

2  なお、控訴人らは、労働組合法一四条の労働協約の成立の要件である「書面の作成と両当事者の署名ないし記名押印」の要件の充足に関し、昭和三四年度第一回運営協議会議事録(甲第一七二号証)には、被控訴人学院長末包一夫と名古屋学院職員組合委員長の記名押印もしくは署名押印が存在するので、これによって右要件を充足している旨主張するが、右甲第一七二号証は運営協議会の議事録であって、その形式及び内容に照らしても、本件年金規程についての労働協約を記載した書面と認めるに足りないものであることはまことに明らかであるから、これによって本件年金規程についての労働協約が成立したことを認めることはできず、控訴人らの右主張は採用の限りではない。

3  控訴人らは、控訴人の右主張を認めなかった原判決の判断を非難するが、上記認定事実に、控訴人らにおいて、その主張の労働協約書そのものを当審の口頭弁論終結に至るまでに提出できなかった事実等を総合すると、控訴人ら主張の事実だけでは、労働協約の成立を推認できないとした原審の判断は相当であって、右判断に違法の点はない。

三  労働協約違反の主張その二について

次に、控訴人らは、本件年金規程の廃止については、協議会と被控訴人との労働協約の効力を持つ昭和五一年九月一八日の団体交渉覚書(甲第一二号証)により、<1>協議会の同意を得ること、<2>個々の職員の同意を得ること、が条件とされていたところ、<1>被控訴人は協議会の同意を得ていない、<2>個々の職員のうち不同意者が三分の一にも及んでいた、のであるから、これに反する本件年金規程の廃止は無効である旨主張する。

そこで、判断するに、まず、被控訴人が就業規則改廃に至るまでの経緯は、原判決理由欄第二の四に記載のとおりであるから、これを引用する。

そして、成立に争いのない甲第一二号証に上記認定事実を総合すると、昭和五一年九月一八日、被控訴人と控訴人らが所属する名古屋学院教職員組合協議会(以下「協議会」という。)との間に団体交渉が行われたこと、右団体交渉の結果を記載した団体交渉覚書(甲第一二号証)には、被控訴人の理事長職務代行者成田薫の発言として、「皆の同意を得てやる。代行理事六名は法律専門家であり、期待権を侵害してやる気はない等を表明、学校の為を思ってのものであると強調した。」との記載があることが認められるが、他方、右甲第一二号証によれば、覚書原案の段階で、右の「同意を得てやる。」の次に続けて記載されていた、「同意を得られない場合はしない。」との文言が削除されて、覚書が成立した経緯があることが認められることからすれば、右覚書の記載をもってしては、控訴人ら主張のように<1>協議会の同意を得ること、<2>個々の職員の同意を得ること、を条件とする労働協約が成立したものとまでは認めることはできず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、右覚書の記載の趣旨を、被控訴人の理事長職務代行者成田薫が、独自年金の廃止については職員全員の同意を得るべく努力する旨表明した趣旨と解するとしても、上記認定事実によれば、被控訴人が、約三年間の歳月をかけ、全職員の同意を得るべく、年退委における審議はもちろん、組合、協議会とも団体交渉を重ねたほか、全職員に理事会案につき同意不同意及び意見を問う調査を実施し、その結果を踏まえて、理事会案の修正を行うなどの採るべき手段を尽くしていることが認められるから、被控訴人において、右努力を怠ったと評価することもできない。

したがって、本件年金規程の廃止の手続が、右昭和五一年九月一八日の団体交渉覚書に反するものがあるとはいえないから、控訴人らの右主張は採用できない。

四  本件年金規程の改廃権者の変更の主張について

控訴人らは、<1>本件年金規程改廃の権限は、本件年金規程八条の定めるところにより年退委に変更され、これに伴って、理事会は改廃権限を失ったものである旨、しかも、<2>年退委における決議は、年退委が運営協議会の専門委員会であって、運営委員会におけるのと同様に全会一致の決定によることが必要であると解せられるのであって、これを経ないでした本件年金規程の改廃は無効である旨、さらに<3>年退委に本件年金規程改廃の権限の権限がないと判断した原判決は、本件年金規程八条の解釈を誤るものである旨、各主張するが、当裁判所も、本件年金規程の改廃について、年退委にその権限があるとは認められず、被控訴人の理事会にその権限があると判断する。そして、その理由は、原判決の理由欄の第一の一4(一)及び(二)に記載のとおりであって、その判断に控訴人ら主張のような違法の点はないから、ここにこれを引用する。

五  職務代行理事の職務権限について

1  抗弁5(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  控訴人らは、職務代行理事には本件年金規程を改廃する権限はない旨主張するが、当裁判所も、控訴人らの右主張は理由がないと判断するものであって、その理由は、原判決理由欄第二の五記載のとおりであるから、これを引用する。

六  したがって、被控訴人の就業規則等の改廃手続に無効事由があるとの、控訴人らの主張は、いずれも理由がない。

第四被控訴人の昭和五三年七月一七日の就業規則等の改廃(独自年金制度廃止)の合理性について

一  一般に新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして、当該就業規則の作成又は変更に合理性が認められる場合には、個々の労働者に等しく適用されるものであって、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を排除することはできないものと解される。

そして、退職年金が、賃金や退職一時金と並んで、労働者にとって重要な権利であることは論を待つまでもなく明らかであり、しかも本件年金規程に基づく年金受給権の原資には、職員の拠出分が含まれているものである上、その支給条件は明確化されていて、功労報賞的性格よりも、むしろ権利性の色彩の強いものであるといえるから、これを剥奪する結果となる就業規則等の改廃については、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容されるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが必要であるというべきである。

二  そこで、右の見地から検討するに、当裁判所も、独自年金制度の廃止については、被控訴人の財政窮迫状態から見てその必要があることは顕著であり、それに加えてそれに対する代償措置が講じられていること等の内容を検討すると、独自年金制度の廃止によって控訴人らが被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性があると判断するものであって、その理由は、以下に付加・訂正するほか、原判決理由欄第二の二、三及び六1に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

原判決別紙「被告学院収支状況」の昭和四九年度の教育管理経費欄の「217,571」を「93,920」と改める。

2  上記認定事実によれば、被控訴人が、昭和五〇年度の時点で行った本件年金制度の将来予測によれば、本件年金制度を本件年金規程のまま存続させると、被控訴人の経常会計から本件年金基金に毎年補填をしなければならなくなることが明らかになり、しかも被控訴人は昭和四八年に学校敷地の約三分の一を売却して約二〇億円の債務を弁済して間もなくの時期であり、財政的な基盤が十分とはいえなかったうえ、経常会計においては消費支出超過状態が続いていたのであるから、本件年金制度につき抜本的な改革を要する状態にあったものであることを認めることができる。

そして、本件年金制度を維持しつつ基金の健全化を図る有力な方法として、適格年金制度に準ずる制度の導入が考えられるが、中信計算結果によれば、この方法によっては、過去勤務債務額償却のために被控訴人の負担が激増することとなり、被控訴人の財政状態から見て右制度の導入は不可能であると認められ、また、職員及び被控訴人の拠出金率を引き上げたとしても、一時的な延命策に過ぎず、いずれは同様の問題が発生することが予想されたことが認められる。

右の必要性との関係から見ると、本件年金制度を廃止し、昭和五二年三月三一日時点において算出した年金一時金を凍結し、退職時に返還すること等を内容とする本件就業規則等の改廃の内容は、控訴人ら職員に不利益を与えるものであるが、他方、代償措置として退職金制度の改正、非常勤講師としての再雇用制度の新設等考慮すると、他に私学共済年金制度が存在することと相まって、控訴人らが定年後において、相当程度の生活を維持しうる水準の収入を得ることが可能となっていることが認められるので、その内容も相当性があるものということができる。

3  控訴人らは、昭和五一年の本件年金基金の赤字は、大量退職者の発生による一時的なものに過ぎず、本件年金基金は破綻していない旨主張するが、年金基金の破綻が一時的なものであるとはいえないことは、上記認定事実から明らかであり、控訴人らの右主張は採用できない。

また、控訴人らは、被控訴人の財政状況がその後において好転していることを挙げ、本件年金制度廃止の必要性がないことの根拠とするが、本件年金制度を廃止すれば、被控訴人の財政状況の窮迫の程度が緩和されることは当然であって、それ以上に、本件年金制度廃止の必要が無かったと評価できる程度に被控訴人の財政状況が好転したと認めるに足りる証拠はないのであるから、控訴人らの右主張は採用できない。

控訴人らは、「学校法人の財政状況を判断するについては、消費収支のみを重視し、これにより一面的に評価するのは誤りであり、消費収支の赤字(支出超過)を直ちに全般的な意味での財政悪化と結び付けてはならない。このことは、学校法人会計に特有な基本金組入れが消費収支の赤字・黒字を左右することからも明らかである。学校法人は営利法人と異なり、経常収支の黒字を多くする必要はないから、大半の学校法人が基本金の組入れで消費収支(差額)を調整しうるのである。」旨を主張し、当審における控訴人山森徹の本人尋問の結果中には右主張に沿う部分がある。

しかし、当審における証人三浦徹の証言に弁論の全趣旨を総合すると、基本金の組入れや取り崩しは文部省令「学校法人会計基準」によって厳格に定められているうえ、被控訴人が公費補助を受けていることから、毎年、県及び公認会計士の厳格な監査・監督・指導を受けており、恣意的な会計処理がなされる余地はないことが認められるから、控訴人らの右主張はその前提を欠き採用できない。

また、控訴人らは、被控訴人の財政が危機的であったというためには、他の学校法人の財政との比較において、多面的にかつ客観的に明らかにされなければならないのに、これが明らかにされていない旨主張するが、右証人三浦徹の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一二一ないし第一二六号証、第一二九号証、第一三〇号証の一ないし一六によれば、被控訴人の財政が当時において危機的であった事実が認められるほか、昭和五三年度以降の財政状態においても人件費比率において他の私学と比較しても高く、消費収支差額においても低く、本件年金制度を維持できるような財政状態ではなかったものと認められる。当審における控訴人山森徹の本人供述中には、右に反する部分があるが右認定事実に照らして採用できず、控訴人らの右主張は採用できない。

4  控訴人らは、不利益変更の代償措置を考慮する以上、本件年金規定の廃止により控訴人らの受ける不利益を具体的に認定すべきであるとして、控訴人らが昭和六一年三月又は平成四年三月に退職したとして、当時の賃金状況を前提とした不利益の額を算出するが、本件年金制度改廃の合理性を判断するに当たって、廃止当時の状況を前提として検討すべきものであるから、控訴人主張の時点で、控訴人らが被る不利益の額を算定しなければならないものではない。

5  控訴人らは、被控訴人の主張する代償措置は、いずれも代償措置とはなっていない旨るる主張するところ、なるほど右代償措置の中にはかならずしも控訴人らにとって有利な変更となっていない部分の存することは控訴人らの主張のとおりであるとしても、これら代償措置を全体としてみれば、私学共済年金制度の存在と相まって、控訴人らが定年後において、相当程度の生活を維持できる水準の収入を得ることが可能となっていることは、上記認定のとおりであるから、結局、控訴人らの主張は採用できない。

6  控訴人らは、控訴人加藤は、昭和五三年四月の経過によって、控訴人横江は、昭和五一年四月の経過によって、いずれも二〇年以上の勤続となり、拠出金の拠出義務を果たしているから、本件年金規程による年金受給資格を取得したものであり、被控訴人は、就業規則の変更によって、この既得の権利を侵害することはできない旨主張するが、右控訴人らが具体的に本件年金規程による年金受給権を取得したものではなく、受給資格を満たしたものに過ぎないのであるから、具体的な年金受給権の取得を前提とする右主張は採用できない。また、控訴人らは、被控訴人が、本件年金制度を昭和五二年三月末日に遡って廃止する旨定めたことは、控訴人らが既に取得した年金受給資格の取得を妨げることになるものであって、許されない旨主張するが、控訴人らが具体的な年金受給権を取得するに至っていないのであるから、権利を侵害するものとして許されないということはできない。

三  そうすると、本件年金制度を廃止する就業規則の改廃には合理性があるものと認められる。

第五本件年金制度廃止の効力について

以上のとおり、本件年金制度の改廃手続に瑕疵があったとは認められず、その内容にも合理性があったと認められるから、本件年金制度廃止が無効であるとの控訴人らの主張は理由がない。

第六結論

よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺剛男 菅英昇 筏津順子)

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